「ぼくらの祖国」・・・あなたは祖国を知っていますか?

投稿日:2014年6月13日 | 最終更新日: 2020年11月14日

中学・高校の授業で、近・現代史、特に現代史を教わった記憶がほとんどない。受験でほとんど出題されないからだ。受験科目で歴史を選択しなければ、まったく何も知らないままになってしまう。

日本について考えようと思っても、基礎知識がないから、自分では考えられない。結局、誰かの意見を鵜呑みにするしかない。
「祖国」と聞いただけで、「右翼か?」とまでは思わないまでも、何となく嫌な感じがしてしまう…。「君が代」を歌うのはなぜかよくない、かっこ悪いことのような気がする…。
「日本人の場合は…」とか「だから日本という国は…」などと日本批判をするだけで、インテリっぽく見えてしまう。
日本語を話し、日本に住み、日本人であることは確かなことなのに、日本という国のことについては、なぜか批判的になってしまう。

『ぼくらの祖国』青山繁晴(扶桑社)

きみは祖国を知っているか。
あなたは祖国を知っていますか。

そんな問いかけから、この本は始まります。

著者の青山繁晴さんは現在参議院議員。Blog「道すがらエッセイ」、YouTube「ぼくらの国会」


著者自身、「ぼくは知らなかった」と言います。なぜなら、日本の学校では教えないから。日本の大人も語らない。子供も大人も、日本国民にもかかわらず、日本を祖国として考えたことはない。
なぜ、日本の学校では祖国について教わらないのか? なぜ、日本の大人たちは祖国を語らないのか? それは戦争に負けたからだという。たった一度の敗戦を経験しただけで、祖国とは何かを教えなくなってしまった、と。
しかし、世界の多くの国が戦争に負けた歴史を持っている。それなのに、日本のように祖国を教えない国はない。戦争の悲惨を知り、平和を大切にすることと、祖国を語らない、教えないことは、同じではない。それどころか、平和を護るためにこそ、祖国をしっかり語ることが欠かせないのではないのか?――と。

著者は、自分の足で現場に行き、直接話を聞き、裏を取り、自分で考え、心と体で感じ、それを力強く訴えかけています。
その行動力と思考力、そして純粋な感性に、頭が下がります。すごいです。そして、熱い。

「平壌の日の丸の章」は、北朝鮮による拉致問題をテーマにしています。
「永遠の声の章」では、被災直後の福島第一原発事故の現場を、政府の許可を得て訪ねています。防護服に身を包み、ガイガーカウンターを片手に。

圧巻だったのは、「硫黄島(いおうとう)の章」です。著者は、政府との交渉を重ねて、民間人として初めて、やっと硫黄島を自由に視察する許可を得ます。そこで著者が見たもの聞いたことは、驚くことばかりです。
恥ずかしながら、ほとんど知らないことばかりでした。というか、いままで知ろうともしませんでした。クリント・イーストウッドの「父親たちの星条旗」も「硫黄島からの手紙」も観なかったし。

硫黄島の戦いは、守備兵力20,933名のうち96%の20,129名が亡くなっています。アメリカ軍は戦死6,821名、戦傷21,865名。計28,686名の損害であり、太平洋戦争後期の上陸戦で、アメリカ軍の損害(戦死・戦傷者数等の合計)が日本軍を上回るという、まさに第二次世界大戦の最激戦地のひとつだったと言われています。
戦いは38日間に及びます。司令官の栗林中将は、一日でもアメリカ軍の本土空爆を引き延ばし、時間を稼いでいる間に、連合軍との和平交渉をしてほしいと望んでいたとのこと。しかし、大本営の方針は、本土決戦、一億総玉砕。――何と虚しい戦いだったか…。

(栗林中将は)二万一千の将兵に向かって、二つのことを禁じられた。一つ、自決をしてはならぬ。一つ、万歳突撃をしてはならぬ。

それを聞いた将兵からは反乱の動きがあったという。

みな、帰れない、ここで死ぬ、家族に会えない。それはわかっているけれども、最後は手榴弾を棟に抱え込んで自決をするか、あるいは無防備な万歳突撃をして敵に殺されて、いわば楽に知れるか。

まったく楽ではないけれども、最後はそのように死ねると、それだけを楽しみにむしろ戦っているのに、それを禁じるとはどういうことかと反乱の動きまで起きた。

すると、帝国陸軍の中将でありながら二等兵のところまで一人づつ回っていき、栗林中将は話しをされた。どう話されたのだろうか。

(中略)

おまえたち、アメリカ軍がなぜ硫黄島を取ると思うか。

大本営は日本の港や向上を爆撃したいからと言っているけれども、アメリは本当はもう日本の港や工場に関心は薄いぞ。

そうではなく、爆撃の目的はもはや本土で女と子供を殺すことだ。女と子供を殺す、すなわち民族を根絶やしにされると日本に恐れさせて降伏に導くのが、アメリカ軍が硫黄島を取る本当の理由である。

だから今から穴を掘ろう、穴を掘って立てこもって、やがて、みな死ぬ。

みな死に、故郷には帰れない、家族には会えない。

しかし穴を掘って立てこもったら一日戦いを引き延ばせるかもしれない、最後は負けても、一日引き延ばしたら爆撃が一日、遅れて一日分、本土で女と子供が生き延びる、二日延ばしたら、本土で女と子供が生き残る。

だから穴を掘ろう。

(中略)

やがて二万一千人が心を一つにして穴を掘り始めた。

しかし、1945年2月19日から始まった戦いは、3月26日、栗林中将以下300名余りによる総攻撃を最後に、壊滅しました。

現在、硫黄島には自衛隊の基地があります。赴任したことのある自衛官の話が載っていました。

「硫黄島に赴任していると、半透明のような帝国軍人と昼も夜も暮らすことになるんですよ」、「昼ご飯を食べていると、隣で、帝国海軍の士官も昼ご飯らしいものを食べているのです」、「夜、寝ていると、寝台の下で帝国軍人もおやすみになっています」

冗談のように話した自衛官は、ひとりもいない。なぜかみな、淡々と、話すのだった。
その意味でも、凄絶な島である。

著者は、金井さんという、硫黄島の戦いを生き残った老人に会いにいきます。金井さんが生き残った理由を聞くことになります。

「もう死を覚悟しましてね、というのは私の部隊、私が小隊長だった部隊はね、戦っていた地下壕に閉じ込められたんです。爆撃で閉じ込められたけれど、栗林忠道閣下を尊敬していたから、閣下が自殺するなと言ったからそれを守って、呼吸もしにくいが、じっと我慢して真っ暗な中で耐えていた」

「ところが自分の体に少年兵がいた。少年兵というのは十五歳とかではないですよ。おそらく十八歳前後ですね。十七歳ぐらいかもしれません。一番若かったやつの、はらわたが出ていて、真っ暗な中で手探りすると、明らかに腸に触った」

「そいつがもう苦悶して苦悶して苦しんで、小隊長殿、自分は栗林中将の、司令官の御命令に背くけれども自決したいと言う」

「私はもう我慢しきれなくて、しょし、いいぞ、おまえ、自決しろと言って彼が手榴弾を抱え込んで自爆した、その衝撃で上に穴があいて、島を占領したアメリカ芸がたまたま通りかかって、何だ、この穴はと見たら生き残っていた日本兵がいたから、それで私は捕虜になって、硫黄島から抜けることができたんです」

ぼくは声が出なかった。

その他のエピソード。
震災直後の福島原発を訪ねたとき、当時の吉田所長との対話。

「吉田さん、この会議で、やってられねえよって怒鳴ったという話があります。本当なんですね」
長身痩躯の吉田さんは、涼しい顔で、「そんなこともまぁ、確かに言いましたな」
そして、その訳を気持ちがいいほど素直に語ってくれた。「みんなみんな、安全な東京にいて、勝手な指示ばかり押しつけてくるから、この現場が混乱する。人災なんですよ」

マスコミ報道だけでは決して知り得ないこと。

東京電力は、2011年の冬に、福島第一原発の事故が主として津波によって引き起こされたという中間報告を公表し、「だから仕方なかった」という姿勢をとった。(中略)
東北電力は、社内でごく少数の技術者が津波への備えを主張して、政府の指導よりも5メートル高くした。 そのため東北電力女川原発は、東京電力福島第一原発と同規模の地震に襲われながら、ほとんど被害はなかった。それどころか地震に耐え、津波を回避した安全な場所として、地元住民が自然に集まって避難していた。

著者の青山繁晴さんの講演会のレジュメには、一つの特長があるといいます。
レジュメというのはフランス語で、その意味は本来、要約、結論ですが、彼のレジュメは、講演テーマ以外は、すべて「問いかけ」になっているとのこと。

なぜなら、私は私の考えを一方的に伝えて、それを真に受けて信じてほしいのではない。みなさんが、自分自身の力で考え判断できるようになってほしい。そのためのきっかけになりたいと思っているだけ。だから、問いかけているんです。あなたはどう思いますか?と。

青山繁晴さんの講演会が、YouTubeにアップされていました。
120分の講演が、10分ずつの12本に分けられて登録されています。熱いです。

講演テーマ:「祖国は甦る」
1)http://youtu.be/hILzOdbfsok
2)http://youtu.be/tDowKsMtUzM
3)http://youtu.be/kbix7ww5jN8
4)http://youtu.be/2OLCxdUJgk0
5)http://youtu.be/XLZagHRNS7M
6)http://youtu.be/hR1yZd9td-g
7)http://youtu.be/gisfc3VJ_tU
8)http://youtu.be/34ZfXmCBx1U
9)http://youtu.be/tLraQ5Enjvo
10)http://youtu.be/3n3jFCmKbo4
11)http://youtu.be/1TRLOS6KsOo
12)http://youtu.be/ogkUV6uritc

関連記事